汝、星のごとく 凪良ゆう
2023-09-21

今日的なようでもありメロドラマのようでもある。
あり得ないほど悟りきった登場人物も出てくる。
この小説のキモは、以下の本文の引用に尽きると思う。
「・・・自分で自分を養える、それは人が生きていく上での
最低限の武器です。結婚や出産という環境の変化に伴って
一時的にしまってもいい。でもいつでも取り出せるよう、
メンテはしておくべきでしょうね。いざとなれば闘える。
どこにでも飛び立てる。独身だろうが結婚していようが、
その準備があるかないかで人生がちがってきます。」
「・・・パートナーがいてもいなくても、子供がいてもいなくても、
自分の足で立てること。それは自分を守るためでもあり
自分の弱さを誰かに肩代わりさせないということでもある。
人は群れで生きる動物だけれど、助け合いと依存はちがうから。」
ここに登場する、自分の子供を利用し、依存し、
しがみついていなければ生きていけない母親は、
上の主張と真逆の人間であり、
そうならないためにどうすればいいかを、
作者は訴えかけてくる。
もたれ合うのではなく、まずは自立した人間にならなければ
幸せに生きていくことはできない、これが一貫したテーマである
と思う。
(9:11)

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「52ヘルツのクジラたち」 町田そのこ
2023-09-09

ネタバレしています。
主人公(女性)が、幼い頃から成人するまでずっと
母親から、また、再婚した義父から、虐待を受けているのだが、
その陰湿さに、読んでいて息苦しくなるほど。
先日女子中学生が母親を包丁で刺し殺すという事件が
実際にあったが、余程の虐待をしていたのだろうか?
主人公はやがてある人とめぐり逢い、実家を脱出することが
できるのだが、その人がトランスジェンダーだったり、
引っ越した先の九州に、母親から虐待を受けている子がいて、
その子に手を差しのべたりと、あまり楽しい話ではない。
相談に乗ってくれ、九州まで心配して訪ねてきてくれたりする
親友の存在も描かれているが、そんな友人、現実には
まずいるわけがない。
勤め先の社長の息子と愛人関係になるというのも、
後に大金を手に入れるきっかけとなり、また
恩人の死にもつながるという結果を招くあたり、
ちょっとご都合主義な展開ではある。
虐待を受けて、言葉が喋れない男の子は
キャラがあまり立っていない。
イメージが湧きにくい。
中学一年男子という設定が微妙。
今日的問題を盛り込んだ意欲作ではあると思う。
それにしても、自分の産んだ子を虐待する、
あるいは、同居人が子を虐待するのを
黙ってみている、という母親の心理が・・・
私には理解できない。
動物の中で、人間が一番ダメダメだわ。(*`へ´*)
゜。°。°。°。°。°。°。°。゜。°。°。°。
来年公開予定で映画化されるらしい。

クロコダイル・ティアーズ 雫井脩介
2023-09-02

寝る前にちょっとずつ読むつもりが、
夜中の2時半まで、一気読みしてしまいました。
10年以上前、やはり夜中の2時まで本を読んで、
翌朝ものすごい眩暈に襲われたことがあり、
それ以来、夜12時過ぎまで読書することを
自分に固く禁じていたのに。
まあ、それほど結末が気になって、
読まずにはいられなかった、というくらい
引き込まれました。
本の帯から引用します。
「家族への疑念を描く静謐なミステリー!
この美しき妻は、夫の殺害を企んだのか。
身内の間で広がる疑心暗鬼の闇」
ね?最後まで一気読みしたくなるでしょ?
ちなみに、クロコダイル・ティアーズというのは
そら涙という意味だそうです。
ま、夜中に眼を酷使するのは良くないので
12時過ぎまで本を読むのはやめようと
思います。
(18:52)

ムーンライト・イン 中島京子
2023-08-25

もう営業していない山あいのペンションに、
車椅子の老女、介護士、フィリピン人の元看護師の
女性3人がなぜか住んでいる。
オーナーの老人と一緒に。
そこへ、住所不定でふらりと立ち寄った30代半ばの
男が加わって・・・。
男二人、女三人の身の上が語られる。
ストーリーを語る気はないので印象だけ。
それぞれの登場人物が抱える問題は
すべて家族間の人間関係。
これが一番やっかいなのだと改めて思う。
ラストは何となくハッピーエンディングらしく
なっているが、気になるのは、息子夫婦と共に
東京へ帰った老女だ。
一旦帰って、息子夫婦と遺産相続の問題を
とことん話し合ってから、また戻って来るんじゃ
ないかな・・。
こんな形のシェアハウスがあったらいいのに。
施設に入るより良さそう。
会話が今風で軽快で面白かった。
実写化しても面白いかもしれない。
ムーンライトで思い出したので、
今日の1曲、「ムーンライトセレナーデ」
(10:30)

百年の子 古内一絵
2023-08-19

太平洋戦争の時代を生き抜いた祖母、
昭和を生きた母、そして今現在を生きる娘、
女三代の生きざまを縦糸に、
子供向け学習雑誌の変遷を横糸に、
綿密な調査、資料の読み込みを基にした
長編書下ろしです。
何しろ話の始まりはコロナ禍真っただ中の
令和3年春ですから、どんなストーリーなのだろうと
興味を惹かれます。
職場の同期女性への敵意や仕事への不満、
母親との長年の確執などから始まりますが、
話はそこではなくて、戦前からあった子供向け
教育雑誌の変遷へと踏み込んでいきます。
戦中の日本を祖母の目から見た章では、
印象に残るフレーズがありました。
「大きなうねりに、個人は逆らえない。
しかし、そのうねりを生んだのは誰だろう。
日本が戦争に負けるわけがないと、本気で
思い込んでいた。
怖いものは見たくなかった。不安なものからは
目を逸らしていたかった。
自分の頭で考えることを放棄して、大きなうねりに
身を任せてしまった方が楽・・・・」
思考停止と同調圧力がいかに恐ろしいかが分かります。
これが、戦争に突き進み、
退くことが出来なくなった人たちの
心理なのです。
そして、人間の歴史は百万年、ホモサピエンスと呼ばれる
種に進化してからも数十万年が経つのに、子供の人権が
認められるようになってきたのは、わずか百年。
子供たちの心が大人の鋳型にはめられて育つから
同じような歴史が繰り返される、と作者は言います。
また、女性の生き方もずっと型にはめられてきて、
生き方を自分で選べるようになってからも
わずか百年。
自由な生き方を手に入れた女性たちは
男性に都合の良い生き方はもう選ばないだろうと
思います。
(だからね、少子化が進むのに歯止めはかからないでしょう。
これは私の勝手な考え。)
力作ですけど、小学生向け雑誌の変遷と、
今現在、仕事と家庭を両立させて生きようとする
女性たちの辛さ、困難さを同時に描きつつも、
後者をあまり突っ込んで書いてないのが
少々物足りないです。
欲張りすぎたのかな。
なんか中途半端に終わった感じがします。
(9:00)
